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変態AVバス 

 雨が降ったり止んだり、そんな朝、自転車出勤を諦めバス出勤に変更した。バスで最寄の駅へ行き、地下鉄に乗り換える。台場からのバスは2方向へ向かう。浜松町行きか門前仲町行きのどちらかだ。時間に余裕があったので、じっくり30分から40分は新聞が読める門仲行きにした。自転車の通勤路とほぼ同じバス路線。自転車は、ダラダラと漕いでいてもこのバスを楽勝で追い越す。途中のバス停で、私よりシニアーなオヤジが加齢臭を振りまきながら私の前の席に座った。数分後、前から聞こえるパチンパチンという不気味な音。

 「爪をバスの中で切ってんじゃネエヨ!このクソオヤジ」であった。オヤジはバス後方二人座りの左側。私は最後部のスペイシャスなベンチシートの真ん中。その右側には二人の幼児を連れたお母さん。喉下までこの言葉が出掛かっていたが、子供に聞こえるとマズイと考え堪えた。その後、左右の爪を切り終わったオヤジは辺りをキョロキョロと確認し始めた。その行動を見た私は彼の欲している次の行動が分かった。シーアーのメーツーを切ろうとしているに違いない。今にも靴を脱ぎ靴下を脱ぎそうな空気を漂わせるオヤジ。

 「それをやっちゃ~お終いよ!」 瞬間的に怒れない私は怒りを準備した。言葉も準備した。「おい!爪は家で切れよ!ここはオメエの家じゃねえ!」と。言葉を噛むと笑いになってしまうと考え数回復唱もした。子供たちは席を乗り出し、オヤジの次の行動に興味津々だ。するとオヤジは爪切りをポケットに入れ、何事も無かったように前を見た。私を含めオヤジの周りの乗客は皆安堵の溜息。そのため息の後、静寂が訪れたのも束の間、「ハアハア」と荒い息遣いが徐々に聞こえてきた。耳を澄ますと間違いなくAV系の男優のアノ時の喘ぎ声である。誰かがMP3で朝から精力的にアレを聞いているのであろうと考えた。

 果てしなく続く喘ぎ声。女の声ならまだしも男の喘ぎ声など早朝から聞きたくも無い。そうこうして、声の出所を探しているうちにようやく原因が分かった。なんとバスの運転手の荒い息遣いがマイクを通し聞こえていたのだった。バックミラーを通し見える運転手はマスクをしている。アナウンスも鼻づまりの声。状況を把握したことで「変態AVバス」が普通の「都バス」になった。と、たまには通勤手段を変えてみるのも、ハラハラドキドキして刺激的であるなあと思う私なのであった。が、バスの運転手は許せたとしても、あの爪切りオヤジだけは許し難い。あの席にだけは座るまいと心に誓った。
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